2018年に改定されたCKD診療ガイドラインではDKD(糖尿病性腎臓病)、すなわち典型的な糖尿病性腎症に加えて、顕性アルブミン尿を伴わないで腎機能が低下する非典型的な糖尿病関連腎疾患を含む疾患概念が導入されましたが、ここでは従来からの典型的な糖尿病性腎症について解説します。
人工透析あるいは腎移植が必要な末期腎不全に至る原因疾患の約45%を糖尿病性腎症が占めています。また、糖尿病有病者と糖尿病の可能性を否定できない予備軍は合わせて2000万人いるといわれており、糖尿病とその合併症である腎症の治療は極めて重要といえます。糖尿病を重症化させないためには、まず年1回の健康診断を受けて早期に見つける必要があります。
糖尿病には大きく分けてインスリンが枯渇している1型と、インスリンの分泌が保たれている2型があります。糖尿病では過去2か月の平均血糖値を反映するHbA1c(正常値は5.5%以下、合併症予防のためには7%未満が目標)が当初の治療により8%前後に低下すると多尿、口喝、多飲などの症状が消えて無症状になることがあります。1型ではインスリン注射なしでは生命を維持できないため通院を中断することはありませんが、2型では症状がなくなって通院を中断することが特に若い人で少なからず見られます。また慢性腎臓病を悪化させる高血圧症が合併しても、やはりサイレントキラーと呼ばれているように症状が出にくいのです。そのため5-10年ぐらい経って視力低下あるいはむくみが出てきて受診したときには、末期腎不全に至っており人工透析が必要になっていることがあります。ですから2型糖尿病で症状がなくなっても通院の継続が是非とも必要です。
糖尿病で通院している人は早期に腎臓病の合併をみつけてもらい治療を受けるために定期的に尿検査を受ける必要があります。また、尿蛋白陰性(-)でも尿中アルブミン陽性(+)(アルブミンは血清中で最も多い蛋白で、尿中の量が増えると糖尿病性腎症が合併した合図となり、さらに量が増えると腎機能低下を予知するサインとなります)のことがありますので3-6か月に1回は尿中アルブミン検査を受けるようにしましょう。
また、糖尿病の人では、血圧が高い状態を放置すると腎症が発症しやすくなるので危険です。糖尿病性腎症の治療の基本は血糖と血圧のコントロール(診察室血圧130/80mmHg未満、家庭血圧125/75mmHg未満)により尿中アルブミン(または尿蛋白)を減らすことです。 300mg/gCr以上の顕性アルブミン尿でもアンジオテンシン受容体拮抗薬(薬の一般名の末尾にサルタンが付いている薬)あるいはアンジオテンシン変換酵素阻害薬(末尾にプリルが付いている薬)、抗アルドステロン薬(スピロノラクトン等)及びその他の降圧薬の併用により30-300r/gCrの微量アルブミン尿へ、さらには30r/gCr未満の正常アルブミン尿に戻せることもあります。
また、最近では、尿中に糖を排出させることにより血糖値をコントロールするSGLT2阻害薬(薬の一般名の末尾にグリフロジンがついている薬)を2型糖尿病に合併した腎症(eGFR30-90ml/分/1.73uかつ顕性アルブミン尿)に投与することにより、上記の降圧薬だけの場合より、さらに尿中アルブミンを減らし、腎機能を保護する効果があることが報告されました。さらに、GLP-1受容体作動薬(血糖値を下げるインスリンの分泌を促進し、血糖値を上げるグルカゴンの分泌を抑え、胃の運動を遅くして食後高血糖を抑え、食欲を抑える効果がある注射薬。1日1回または2回打つ薬と週1回打つ薬がある)にも尿中アルブミン(蛋白)減少効果と腎保護効果があるという報告が出てきており、注目されています。したがって、血糖値と血圧のコントロールはもちろんですが、これらの薬を駆使して尿中アルブミン(または尿中蛋白)を減らすべく、しっかりした治療を受ける必要があります。
かかりつけ医から腎臓専門医への紹介基準もCKD診療ガイドラインに示されており、正常アルブミン尿ではeGFR45ml/分/1.73u未満で、微量アルブミン尿では60 ml/分/1.73u未満で、顕性アルブミン尿ではたとえeGFRが正常でも紹介すべきとされており、アルブミン尿(蛋白尿)の多さが重症度を示していることがわかります。
腎機能が低下するにつれて薬が増え、貧血の注射なども開始され、医療費の自己負担も多くなり家計を圧迫することがあります。血清Cr5r/ml以上またはeGFR10ml/分/1.73u未満になると、じん臓機能障害で身体障害者3級の認定を受けられる可能性があります(人工透析あるいは腎移植に至れば1級)。所得制限はありますが、医療費自己負担がなくなることがありますので各市町村の障害福祉課に問い合わせてください。この際、渡される診断書は腎臓専門医の身体障害者指定医が書くことになります。 |