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慢性腎疾患(CKD)(保存期腎不全)の治療
当クリニックでは慢性腎臓病(CKD)を中心に診療を行っています。患者さんの治療コストを考慮し、血清クレアチニン値が5r/dl以上又はクレアチニンクリアランス10〜20ml/min未満又はeGFR 10ml/分/1.73m²未満の方では、医療費負担を0%にできる身体障害者手帳3級を取得して頂きます。(市役所の障害福祉課で腎不全の身体障害者手帳申請用紙をもらいそれをクリニックに持参していただき、こちらで記入してから再び市役所へ提出していただくと完了です。ただし年収800万円以上ではこの制度を利用できません。)栄養指導だけでなく調理実習も受けられるのが当院の特徴です。 |

1. 保存期(透析に入っていない段階)慢性腎不全
当クリニックに腎機能低下で受診される患者さんのパターン |
- 他のクリニックに通院していて腎機能が悪化して紹介された、または自己判断で受診。
- 病院の糖尿病外来または糖尿病専門クリニックに通院中に腎機能が悪化して紹介された、または自己判断で受診。
- 病院の腎臓内科に通院中だが蓄尿検査や十分な説明がなく薬を処方されているだけなので心配になり受診。
- 調理実習を受けて食事療法の理解を深める目的で受診。
- 医師だけでなく、看護師と管理栄養士の指導も受けながら腎不全の悪化を抑えたいと希望して受診。
- 健康診断で尿蛋白陽性または血清クレアチニン値の増加を指摘され精査目的で受診。
- 尿に泡が立つのが心配で受診。
- むくむようになったので受診など。
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2. 初診当日に行う検査項目
1,2か月前のデータがある場合を除いて採血と尿検査を行います。むくんでいる場合は胸部レントゲン、InBodyと心電図などが加わることがあります。 |
- 末梢血液(腎性貧血および鉄欠乏性貧血の有無を確認)
- クレアチニン、尿素窒素(腎機能をみる)
- 尿酸(腎機能低下で増加する。高値では痛風発作を起こすことがある)
- アルブミン(栄養状態)
- 電解質(ナトリウム、カリウム、クロール、カルシウム、リン)
- 脂質(LDL-コレステロール、HDL-コレステロール、中性脂肪:動脈硬化関係)
- 肝機能(AST,ALT,Al-p、γGRP,LDH,TB。薬を開始する前の肝機能をチェックし開始後に副作用で肝障害が起こっていないか確認するため)
- 血糖とHbA1c(糖尿病を指摘されていない場合は最近の検査結果がない場合のみ行います)
- intact PTH(副甲状腺ホルモン:摂取されたまたは日光に当たり合成されたビタミンDが体内で利用可能になるために腎臓で使える形に変換される必要があります。腎機能が低下すると十分に変換されず利用可能なビタミンDが減ると副甲状腺ホルモンの産生を抑制できなくなり血中の副甲状腺ホルモンが増加し骨障害や動脈硬化を起こすことになります)
- 重炭酸イオン(腎機能低下で酸の排泄障害がおこるため、血中に酸がたまり、血中重炭酸イオンが低下します。酸が溜まった状態が続くと骨に影響があり、腎機能低下にも拍車がかかることが知られています)
- NT-proBNP(心不全のときに増加する。むくんでいる場合、心臓由来の浮腫であるか否か確認する目的で胸部レントゲンと一緒に検査することがあります)
- 検尿
- InBody(体重測定に似た検査で、むくみ、筋肉量、脂肪量などを測定できます)
2回目以後受診時には採血と蓄尿検査を行います(尿蛋白排泄量、塩分摂取量、リン摂取量、腎機能などを確認できます)。
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3. 慢性腎臓病には動脈硬化症の合併が多いことが知られており、以下の検査を逐次行っていきます。 |
- 心電図(心臓の動脈硬化をチェック)
- FMD(上腕を縛って解放後の動脈の拡張程度を見て動脈の内皮機能を検査)
- ABI(両上肢と両下肢の血圧を測定し下肢動脈の動脈硬化の有無を確認)
- 頚動脈エコー(心臓と脳の動脈に近いため、脳梗塞や狭心症、心筋梗塞のリスクを知ることができ、高脂血症の薬を開始するきっかけになることがあります)
- 腹部エコー(腹部大動脈に石灰沈着があるか、腎臓は萎縮しているか、前立腺肥大、膀胱腫瘍、婦人科領域の腫瘍などによる下部尿路の閉塞による水腎症はないかなどをチェックします)
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4. 治療 |
- 降圧薬には数種類ありますが、その中でACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬、ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)、またはDRI(直接レニン阻害薬)を開始します。尿蛋白排出量が減少せず、血清カリウム値が増加していない場合はこの中の2種類を併用することがあります。
- 血圧が130/80以内に下がらない場合は、カルシウム拮抗薬を追加し、さらに下がらない場合は降圧利尿薬を併用します。
- 糖尿病がある場合はHbA1c7%未満を目指します。
- 蓄尿の結果で蛋白摂取量を確認し、多く摂取している場合は0.6-0.8g/kg/日の蛋白摂取量となる食事療法を提案します。
- 6g/日の食塩摂取を目指します。カリウムが5.5mEq/L以上になっている場合はカリウム摂取制限を行い、それでも改善が不十分であれば、胃腸内でカリウムとカルシウムあるいはナトリウムと交換して便中に排泄する薬を開始します。
- 消化管内で尿毒素を吸着するクレメジンを開始します(最近、動脈硬化予防効果が指摘されるようになっており、3割負担ではジェネリックでも月4,000円以上の自己負担になりますが、可能であれば早期からの服用をお勧めします)。
- 副甲状腺ホルモンが高値になっている場合は、活性化されたビタミンDの内服を開始します(食事摂取と日光による産生でビタミンDは体内にあっても、腎機能低下でビタミンDの活性化が不十分になっており利用できないため)
- 腎機能が低下すると酸の排泄が低下し、体内に酸が溜まり代謝性アシドーシスという状態になります。これを放置すると腎不全進展が促進される可能性がありますので重炭酸イオンが低値の場合は酸を中和する目的で重曹(制酸剤としても使用される薬)を開始し、重炭酸イオン20mEq/L以上を目指します。
- 最近、筋肉量が増加することで腎機能低下速度が低下することが、動物実験を中心に明らかにされつつあり、筋肉量を増加させる抵抗運動を取り入れることも重要な可能性が出てきました。転倒防止にも有効な四肢や体幹の筋肉をつける運動が推奨されます。
最も基本的な治療はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬あるいはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を含めた降圧薬により血圧を130/80mmHg以下に下げ、尿蛋白排泄量を減らすことです。その上で、食事療法はタンパク(0.6-0.8g/kg/日)、食塩(7g以下)、カリウムおよびリンの制限(蛋白制限下では行わないこともある)と十分なエネルギー摂取を目標として35kcal/kg/日以上。糖尿病や肥満がある場合は30kcal/kg/日前後とします。患者さんのご要望も考慮し、実際に取り入れるか否かは相談して決めることになります。
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5. 典型例を紹介します。 |
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50代の女性。20年前頃に肉眼的血尿あり。尿蛋白3+、尿潜血3+のため総合病院で腎生検を受けIgA腎症と診断された。10年前にステロイド療法を受けるも改善せず、血清クレアチニン(s-Cr) 0.6mg/dl(女性の正常値は0.8mg/dlまで)、血中尿素窒素(BUN)24.1mg/dl(20mg/dlまでが正常)であった。以後病院を転々とするもこの間服薬せず。近医にて再度受診しs-Cr2.67mg/dl、BUN71.3mg/dlになったため当院を紹介され受診。
初診時、身長162cm、体重39.0kgと痩身。血圧は156/90mmHg。前医にタンパク制限を勧められてから、厳格にタンパク制限を行ない、肉と魚の摂取を中止した結果、2ヶ月で体重が3kg減少。尿タンパク2+、尿潜血2+と陽性であり、採血と24時間蓄尿を施行。採血の結果は、s-Cr2.82mg/dl、BUN36.5mg/dl、ヘモグロビン(Hgb:貧血の目安で10g/dl以上が目標)9.2g/dl、血清カリウム(s-K)4.2mEq/l(3.7-4.8mEq/lが正常)、血清アルブミン(s-Alb)3.43g/dl(4.2-4.9g/dlが正常)、血清総コレステロール(s-TC)229mg/dl(150-220mg/dlが正常)であった。24時間蓄尿では尿蛋白2399mg/日(150mg/日以下が正常値。500mg/日以下が目標値)、クレアチニンクリアランス18.0ml/分(100ー110ml/分が正常値)、蛋白摂取量36.5g/日で0.63g/kg/日(一般の日本人では1.2g/kg/日前後摂取)、食塩摂取量6.7g/日(日本人の平均は11g/日前後)、リン摂取量342mg/日と判明。
以上からIgA腎症を原疾患として慢性腎不全が悪化しており、ネフローゼ症候群(尿蛋白3.5g/日以上、s-Alb3.0g/dl以下)には至っていないが、尿蛋白が多量に出ているため及び低栄養状態になっているためにs-Albが低下し、s-TCが軽度に増加している状態(ネフローゼ症候群では250mg/dl以上になっていることが多い)と考えられました。また、既に蛋白摂取量が通常摂取量の半分前後にまで制限されており、リン摂取も目標の500mg/日以下に達しているものの、その分エネルギー摂取量が不十分である可能性があると推測されました。
このような保存期腎不全患者に対しては、まず血圧を130/80未満に下げることが最重要です。また、尿蛋白低下作用を有するACE阻害薬あるいはARBを使用することにより腎不全進展抑制効果が期待できることが知られているのでロサルタンを開始しました。
また、162cmの身長から標準体重を算出(1.62×1.62×22=57.7kg)し、35kcal/kg/日をかけることにより2000kcal/日のエネルギー摂取量を設定し、蛋白摂取量は状態が落ち着くまでとりあえず50g/日(0.87g/kg/日に相当)に設定し、動物性のたんぱく質を適正量摂取することを求めて栄養指導を行いました。この際、日本腎臓学会監修の腎不全患者向け食事療法ビデオである「低タンパク食事療法を学ぶ〜食品成分表を中心に〜」と「低タンパク食の献立づくり」を貸し出して参考にしていただきました。その後、月1回の栄養指導を行い、調理実習を組み合わせ、蛋白摂取量は34-37g/日(0.61-0.64g/kg日)で経過しました。
血圧は104-120/70-80mmHg程度にコントロールされ、エネルギー摂取も十分になった通院開始後6ヶ月の時点で、尿蛋白排泄量も約3分の1の848mg/日まで低下し、s-Albは3.43から4.10g/dlにまで改善しました。
また、腎性貧血に対してはエリスロポエチン製剤(腎臓で産生される赤血球造血因子で20年以上前から製品化され使用されている)を静脈内投与し、Hgbが11.6g/dlまで増加しています。s-Cr は2.82から3.22にまで増加してから2.98mg/dlに低下しましたが、これはACE阻害薬またはARB開始後の一時的腎機能の低下または低たんぱく開始後4ヶ月頃までは腎機能が低下するといった報告に一致しており、その後は腎機能が安定しています。
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(主な文献)
1)大石 明:食事療法。腎不全治療マニュアル(腎不全予防医学調査研究委員会編)2007;196-200。
2)Klahr S, Levey AS, Beck GJ, et al: The effects of dietary protein restriction and blood-pressure control on the progression of chronic renal disease. N Engl J Med 1994; 330:877-84
3)大石 明、福原俊一、鈴鴨よしみ、他:JAPAN-KD (Japan Appropriate Protein And Nutrition in Kidney Disease)study。Annual Review 2004 122-126中外医学社 |

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